宅地建物取引業(以下「宅建業」)を営むためには、法律に基づく免許が必要です。東京都で不動産売買、賃貸仲介などの事業を始めたいときには、東京都知事免許を取得する必要があります。このコラムでは、東京都で宅建業免許を申請するための要件、手続きの流れ、必要書類、注意点などを、実務的視点も交えて、できるだけ詳細に解説します。
目次
宅地建物取引業免許とは
宅地建物取引業とは、不動産(宅地・建物)の売買、交換、貸借について、仲介または代理の業務を行う事業を指します。これを「不特定多数の者を相手として、反復または継続して行う」場合には、宅地建物取引業法により免許が義務付けられています。
免許を受けなければ、法令上そのような業務(仲介、代理、媒介など)を正当に行うことができず、罰則の対象となります。制度には、申請・審査・免許交付・更新といったプロセスが定められており、その中で人的・物的要件、財務的な安全性などが確認されます。
東京都における免許の種類
宅建業免許には大きく分けて2種類あります。
都道府県知事免許
1つの都道府県内にのみ事務所を置いて事業を行う場合。たとえば東京都内だけに事務所を展開するなら東京都知事免許となります。
国土交通大臣免許
複数の都道府県に事務所を設置して事業を行う場合。たとえば東京都に本店、神奈川県に支店があるなどの場合は大臣免許となります。
このコラムでは、主に東京都で新規に宅建業を始めたい人が取得する「東京都知事免許」の申請方法を中心に解説します。国交大臣免許を取得する場合は要件・手続きが少し異なる点がありますが、基礎は類似しています。
免許を受けるための要件
東京都知事免許を新規で取得するためには、以下の要件をクリアする必要があります。法律・東京都の「宅地建物取引業免許申請の手引」等に定められています。
要件種類 | 内容 |
---|---|
欠格事由がないこと | 法により免許を拒否されるような犯罪歴、破産歴、免許取消歴、暴力団関係者であること、成年後見・被保佐人であることなど、特定の条件(欠格事由)に該当しないこと。 |
事務所の形態(物的要件) | 主たる事務所および必要に応じた従たる事務所が、一定の基準を満たしていること。たとえば、事務所として継続的に業務を行える施設であること、使用権原(自己所有または賃貸の契約など)が明らかであること、事務所の平面図や写真が必要。住宅の一室を事務所とすることが可能なケースがありますが、共有・仮設などの場合には制約があるため確認が必要。 |
専任の宅地建物取引士の設置 | 事務所ごとに専任の宅地建物取引士を置くこと。専任性(専任であること)を求められる。最近の制度改正により、副業を原則認める等の改定があります。 |
使用人等の要件 | 法令(政令)で定める使用人が必要な場合には、その使用人も要件を満たしていること。 |
法人の場合の要件 | 法人が申請するなら、会社定款に「宅地建物取引業を営む旨」が目的として記載されていること、役員等の欠格事由がないこと、登記が整っていることなど。 |
これら要件が整っていないと、宅建業免許を受けることができないため、事前確認が非常に重要です。
必要書類一覧
申請にあたって準備すべき書類は多岐にわたります。以下に、代表的な必要書類を項目別に整理します。
書類名 | 説明・注意点 |
---|---|
免許申請書(様式) | 東京都知事免許用の申請書。複数の面があり、本店・支店すべてを記載。【東京都住宅政策本部不動産業課】HPからダウンロード可 |
事務所写真台紙 | 本店及び支店の外観・内観を撮った写真を貼ります。 |
事務所の平面図(間取り図)、位置図・付近見取り図 | 事務所の広さ・間取り・入口・窓の位置などがわかる図面、さらには事務所の所在場所の地図など。周囲環境との関係もみられることがあります。 |
使用権原を証する書類 | 賃貸借契約書等に従って記入します。 |
履歴事項全部証明書(法人の場合) | 法人の登記情報を正確に示す証明。商号・本店所在地・役員構成などが最新であること。 |
役員の略歴書 | 法人の代表者や役員の学歴・職歴・免許取消歴などを含む略歴書。 |
所得証明・納税証明書 | 法人であれば法人税等の納税証明、個人であれば所得を証する書類や、資産に関する調書などが必要になる場合があります。 |
身分証明書、登記されていないことの証明書 | 申請者・役員等が成年被後見人・被保佐人でないこと、過去の刑歴などを確認する書類。登記されていないことの証明は本籍地の市区町村役場などで取得します。 |
宅地建物取引士関係書類 | 専任の宅地建物取引士を配置するという証明、その資格登録証明、登録簿での登録状況、取引士が成年被後見人等でないことの証明など。 |
宅建業免許申請の流れ
東京都で新規に知事免許を取得する手続きについて、典型的な流れとおおよその期間を説明します。各ケースによって異なりますので、目安としてお考えください。
ステップ | 内容 | 目安期間 |
---|---|---|
1 事前準備 | 要件を満たしているか事前にチェック。特に、専任の宅建士の確保、事務所の独立性、本店登記を確認。 | 数日~数週間 |
2 書類作成・申請書類の準備 | 免許申請書、各種証明書、写真、図面等を準備。記入ミス・添付漏れのないように慎重に。 | 1~2週間 |
3 東京都庁へ申請 | 東京都住宅政策本部民間住宅部不動産業課 免許担当へ提出。手数料の支払いも同時に。 | 1日(提出日) |
4 審査期間 | 東京都が書類を審査。欠格事由の確認、専任取引士配置の確認、事務所の確認など。記載内容に不備があれば補正を指示。 | 通常 30~40日程度 |
5 供託・保証協会加入 | 営業保証金を供託するか、弁済業務保証金分担金を支払って保証協会に加入する。ほとんどの方が協会に加入します。 | 都庁申請の直後 |
6 免許はがき発行 | 東京都から本店に免許通知のはがきが届きます。 | 審査期間経過後 |
7 免許証交付 | 免許通知はがきと保証金供託の証明書をもって都庁で宅建業免許証を受け取ります。この瞬間から宅建業の営業を開始することができます。 | 即日 |
最近の東京都は審査期間が長く、申請内容に問題がなくても2か月以上かかることがあります。書類準備から免許交付までは3ヶ月以上と考えておいたほうが無難です。
保証金供託or保証協会加入の選択肢
宅建業者は、宅建業開業の条件としてどちらかを選択する必要があります。協会とは、いわゆる「ハト」や「ウサギ」のことです。
選択肢 | 内容 | 金額・特徴 |
---|---|---|
営業保証金の供託 | 法務局等に営業保証金を預ける方法。賃借・所有など、本店(主たる事務所)または支店(従たる事務所)ごとに供託額が定められている。供託後、「営業保証金供託済届出書」を行政庁に提出。 | 主たる事務所:1,000万円、支店等:500万円(支店等) |
保証協会への加入 | 宅地建物取引業保証協会等に加入し、「弁済業務保証金分担金」を負担することで、営業保証金の供託を免除される制度。加入金・年会費・分担金が必要。協会によって申込みルート・金額・条件が異なる。 | 主たる事務所:60万円、支店等:30万円 |
どちらを選ぶかは費用負担・資金繰り・将来支店展開するかどうかなどを考えて決めることになります。
免許交付後に必要な諸手続き・義務
免許を取得したら単に営業を始めればよいわけではなく、その後も様々な義務があります。これを怠ると罰則や免許取消のリスクがあります。
主な義務・手続きは以下の通りです。
宅建業者票(標識)の掲示
事務所等に「宅地建物取引業者」であることを分かる標識を掲げる。
報酬表の掲示
取引の報酬についての標準的な金額を掲示する義務。
専任宅地建物取引士の登録・勤務先届出等
専任取引士が就任したら、資格登録簿への勤務先・名称等の変更登録を行う。
変更届出義務
以下のような事項に変更があった場合は所定期間内に届出をする必要あり。例:代表者・役員の変更、事務所の所在地変更、商号変更、専任取引士の就任/退任、使用人の変更等。
報告義務・書類備置き義務など
法律で定められた帳簿等を備え置くこと。また、行政の調査などが入ることも想定される。
更新・変更・廃業の手続き
免許の有効期間は5年です。期限満了日の 90日前から30日前 の間に更新申請を行う必要があります。期限を過ぎると免許が失効し、新規申請扱いになるため要注意です。
更新時にも、専任取引士配置、事務所の使用状況、欠格事由の有無など、免許取得時と同様の審査があります。
代表者や役員、事務所所在地、商号、専任取引士や使用人の変更、支店を増設廃止など、申請内容に変更があるときには、所定の変更届出書を提出する必要があります。変更が免許状況に影響するもの(専任取引士の退任等)であれば、即時届出義務があるものもあります。
事業をやめる場合、免許を返納し、廃業届を提出する必要があります。使用していた事務所等の標識を除去するなど、営業をしなくなる旨の表示も含めて整理します。
注意点・よくあるミス
免許申請手続きでは、たくさんの事務的な細かい確認が必要であり、以下のようなミスや落とし穴がよくあります。これらをあらかじめ把握しておくことで時間・手間を節約できます。
専任宅地建物取引士の配置・登録に不備
資格登録が済んでいない、登録簿上別社で登録されたまま、住所が旧住所のまま、成年後見等の登記状態に問題がある、常勤性・専任性を満たさない条件である等。これが原因で申請が止まることがあります。
事務所の独立性が不明確
宅建業免許における事務所要件の審査は非常に厳しいです。事務所図面・地図・写真も鮮明かつ正しいものを用意。共有部分・建物の一室を使う場合などは特に注意が必要です。
登記内容の問題
履歴事項全部証明書の目的に「宅地建物取引業を営む旨」の記載が求められます。また、宅建業は登記上の本店を主たる事務所とするため、本店所在地の登記にも注意しましょう。
欠格事由の見落とし
刑事罰、破産、暴力団関係、公的書類に虚偽があった等。申請者本人だけでなく法人の場合は役員・政令使用人などについても確認。
保証協会加入か供託かの選択の遅れ
都庁への免許申請後すぐに行動しないと交付・営業開始に遅れが生じる可能性があります。保証協会の手続きにも時間がかかるので、申請と並行して準備できるものを進めましょう。
申請時期・更新時期に関するタイムマネジメント不足
有効期限満了前に更新申請をしないと失効になる。新規申請に時間がかかるのを見込んで余裕を持って動く。申請窓口・審査締切日なども確認。
行政書士に依頼するメリット
宅建業免許申請は自分でも行えますが、行政書士に依頼することで以下のようなメリットがあります。
- 要件や必要書類のチェック・収集・作成代行により書類不備のリスクを減らし、補正による遅延を防げる
- 事務所要件・図面・写真など細かい物的要件について経験に基づくアドバイスが受けられる
- 保証協会加入の手続きなど、初めてだとわからないことが多い部分をまとめてサポートできる
- 役所対応・スケジュール管理を代行できるので、事業開始までの見通しを立てやすい
費用はかかりますが、時間と手間とリスクを考えると、新規開業で1日でも早く宅建業に関する事業を開始した方は行政書士の利用をおすすめします。
おわりに
東京都で宅地建物取引業免許を取得するためには、要件をしっかり理解し、書類を丁寧に準備し、スケジュールを余裕をもって動くことが肝要です。初めての申請では「こんなはずではなかった」ということも起きやすいため、不安な点や分からない点は専門家(行政書士など)に相談するのが安心です。
もし宅建業免許申請代行をご検討であれば、経験豊富な行政書士法人ストレートへご相談ください。